伊勢形紙

伊勢形紙の歴史は古く、その始まりについては、色々な説があります。室町時代の絵師が「職人尽絵(しょくにんずくしえ)」に形紙を使う染職人を描いているところから、室町時代末期には形紙があったと考えられます。
江戸時代に入ると、現在の和歌山県と三重県南部を支配していた紀州藩の保護を受け、白子、寺家の両村を中心に発展を遂げました。

  • 告示

    技術・技法


    「法造り」には、「紙裁ち包丁」を用いること。 


    「紙つけ」には、柿渋を用いること。 


    「枯し」は、「自然枯し」又は「室枯し」によること。 


    型彫りは、「錐彫り」、「道具彫り」、「突彫り」、「引彫り」又は「縞彫り」によること。 


    「糸入れ」を行う場合は、生糸を用いること。

    原材料

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    型紙に用いる紙は、手漉のコウゾ紙、ミツマタ紙若しくはガンピ紙又はこれらと同等の材質を有するものとすること。


    柿渋は、4年以上寝かしたものとすること。

  • 作業風景

    伊勢形紙の工程は大きく分けて型地紙づくりと彫刻に分けられます。型地紙の生産は全国でもここでしか行われていません。

    工程1: 法造り(ほづくり)

    200枚から500枚の美濃和紙を重ねて規格寸法に裁断します。

    工程2: 紙つけ

    3枚の和紙を紙の目に従って縦・横・縦とベニヤ状に柿渋で貼り合わせます。和紙は横方向には強く、縦方向に弱い性質を持っています。3枚を交互に貼り合わせることでどんな方向から切っても弱いところがない、強靱な紙になります。また、柿渋を塗った和紙はかつてはジャノメ傘に用いられていたように、水に強い性質があります。

    工程3: 乾燥

    紙つけの終わった紙は柿渋の粘着力を増加させるため、1~2日寝かせます。その後、桧の帳板に貼り天日で干します。夏の天気のよい日であれば、1時間ほどで乾きます。

    工程4: 室干し(むろがらし)

    乾燥した紙を燻煙室(室内の温度は約40度)へ入れ、杉のおがくずで約1週間いぶし続けます。また柿渋につけて乾燥し、2度燻煙します。貼り合わせた和紙の繊維の間で膜状になった柿渋を固める作用があります。これにより水に強く彫刻で切るのに適当な、伸縮しにくいコゲ茶色の紙(生紙)になります。

    工程5: 型地紙(かたじがみ)の完成

    さらにもう一度柿渋に浸し天日乾燥→室干し→表面の点検という工程を経て、型地紙になります。約45日間かかります。実際に型彫り用の紙として使用するまでには、さらに1~2年寝かせておきます。

    工程6: 彫刻

    彫刻に4つの技法(錐彫り、道具彫り、突彫り、引彫り)があります。錐彫りは刃先が半円形の彫刻刀を型地紙に垂直に立て、机の上に両腕をしっかり固定し、錐を回転させながら小さな孔を彫っていきます。丸の連続で文様を作るもので、江戸小紋の形紙として出荷されます。細かいものになると3センチ四方に900個も丸を彫ります。
    突彫りの場合、 5~8枚の型地紙を重ね、穴板という台に置いて、刃先の長い小刀で垂直に突くようにして前に彫り進みます。
    道具彫りの場合は、刀自体が花、扇、菱などの形に造られた彫刻刀を使って色々な文様を彫り抜きます。道具彫りの職人は多い人では3000本もの彫刻刀を持っています。
    引彫りの代表的な技法として縞彫りがあります。鋼の定規を当てて一気に彫り上げます。細かいものなら、1センチの中に11本の縞を彫る場合もあります。

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    工程7: 紗張り(しゃばり)、糸入れ(いといれ)

    道具彫り、突彫り、引彫りは図柄によっては彫る面積が大きくなるので大変弱く、染色するのにどうしても補強を必要とする場合があります。紗張りは細い絹糸の紗を漆で貼り付ける補強方法で、柄物で行われます。
    糸入れは現在、縞彫りの形紙だけで行っています。そのまま使うと細かい縞模様がちぎれるかもしれず、染色には使用できないので、2枚の紙の間に絹糸を入れ、補強をします。少しでもずれると形紙として使用できなくなるので、大変な集中力を要します。

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  • クローズアップ

    小紋の美を継承する巧みの技

    友禅染や小紋・ゆかたなどの図柄や文様を染める際に用いられる伊勢形紙。特に小紋にいたっては全国の99%が伊勢から出荷される形紙で染められるという。着物の小紋にこだわり続ける職人に話を聞いた。

     

    中学卒業のあくる日から職人に

    伝統的工芸用具に指定されている伊勢形紙には、表現する柄によって錐彫り、道具彫り、突彫り、縞彫りという四つの彫刻技法がある。その中でも錐彫りの工芸士である二代目六谷梅軒さん。初代六谷梅軒は父であり錐彫りの人間国宝だった。中学卒業のあくる日から仕事を始めたそうだ。「ちょうど父が人間国宝の内示を受けた頃で、後継者がいると望ましいということだった。自分の場合はそのような特殊な事情があったが、家業としてやっていて自然に後を継ぐという人が多かったし小さい頃から親の仕事を見てきて(後を継ぐ)予感はありました。」

    一定のリズムで淡々と彫り進める

    伊勢形紙の彫刻は道具づくりから

    「小学校の頃から手伝っていたから、彫り方は見よう見まねで覚えられた。彫刻に関して苦労という苦労をした覚えはないね。」しかし彫刻刀づくりには苦労したという。錐彫りの場合半円形の彫刻刀を使うが、半径が1ミリにも満たないものから大きなものまで、はがねを切り曲げて自作する。すべて微妙に太さが異なる彫刻刀が200本以上あるという。「道具を作ったり研いだりすることは、形や作り方を見て知っていたけど、刃物は自分で経験して苦労しないと、一人前にならない。20年して切れ味や研ぎ方がようやく分かった。未だに思い通りに刃が出来たと思ってもうまく彫れないことがある。」だから「彫るときはいろんなことを考えてるよ。軽く音を流していることもある。でも道具を作るときは死にもの狂い。」お正月には彫刻刀の刃を一本一本すべて研ぐ。200本以上研ぐと10日はかかるが、それを年中行事にしているそうだ。

    六谷さんがつかっている彫刻刀

    先代から学んだこと

    「先代とは20年間一緒に仕事をしました。技術は見て学ぶものですが、仕事に対する情熱、姿勢もやはり見て覚えるものなんですね。私は風邪を引いたりしたら休もうかと思ったりしたけど、父は毎日毎日、絶え間なく仕事を続けていました。」プレッシャーについても尋ねてみた。「もちろん感じていましたが、努めて思わないようにしました。それに(職人人生の)半分は親方と一緒に仕事できましたから。ただひとつ言えることは、これから先親方を越えられるかどうかはわからないけど、(生きている間には)通り越さなかったということです。だから一年でも長生きしよう思うてます」

    作業台。24×39センチで完成に約3週間かかるという

    着物は日本の民族衣装、だからなくならない

    着物を普段着として着ることがなくなり、バブル崩壊後は嗜好品としての着物需要も減った。仲間の間でも着物離れや後継者不足の悩みが話題だとか。六谷さん自身、後継者がいない。「技術は伝えられたとしても、仕事は取ってあげられない。何十年もやって技術を身につけたとしても将来は?ということになると、責任が持てないから。伝える以上は本職にしてほしいし」今までも弟子入りしたい、という人は何人かいたが、そのたびに「学校に行きなさい」と帰したそうだ。しかし「着物は日本の民族衣装だから、決してなくなることはない、ということを望みにしています。」と六谷さんは力強く語った。

    小紋の着物に希望を託して

    小紋の着物にこだわっていきたいと語る六谷さんは最後にこう語った。「今までは着物の会社から『こんな柄をデザインしてほしい』と言われることが多かった。これからは自分のデザインをして、今までになかったような小紋を作りたい。もちろん自分だけでなく、みなさんに納得していただけるものです。あとは伊勢形紙の魅力を分かった上で、仕事をしようという人に巡り会えること。この二つが希望です。」

    六谷さんの形紙で染められた小紋

    職人プロフィール

    六谷梅軒 (ろくたにばいけん)

    昭和28年より伊勢形紙に従事。
    着物の小紋を生業とする伝統工芸士。

    こぼれ話

    伊勢形紙の挑戦新たなる伝統への第一歩

     

    • 趣のある伊勢形紙のふすま

    • 美術形紙は多種多様な文様が揃っている

     

     

概要

工芸品名伊勢形紙
よみがないせかたがみ
工芸品の分類 工芸材料・工芸用具
主な製品染色用具、美術工芸品、インテリア
主要製造地域鈴鹿市
指定年月日昭和58年4月27日

連絡先

■産地組合

伊勢形紙協同組合
〒510-0254
三重県鈴鹿市寺家3-10-1
鈴鹿市伝統産業会館内
TEL:059-386-0026
FAX:059-386-7511

http://www.isekatagami.or.jp/

■海外から産地訪問
画像
伊勢形紙~産地訪問記事

特徴

伊勢形紙は友禅、浴衣、小紋等の柄や文様を、着物の生地に染めるために用いる伝統的工芸用具です。

作り方

伊勢形紙には4つの彫刻技法があります。 ●引き彫り:内縞彫り定規と彫刻刀を手前に引き、均等の縞柄を彫ります。 ●突彫り:5~8枚の型地紙を穴板と呼ばれる台に置いて小刀を垂直に突くようにして彫り進みます。 ●道具彫り:刃そのものが花、扇、菱等の形に作られた彫刻刀を使って彫り抜きます。 ●錐(きり)彫り:小紋を彫る技法で「鮫小紋」、「行儀通し」、「あられ」といった文様を、刃先が半円形の彫刻刀で彫っていきます。

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