日本 ここに技あり!~二風谷、アイヌの里~
北海道に古くから住む民族、アイヌ。この人々や文化について、どんなイメージをお持ちですか?今でも民族衣装に身を包み、電気のない生活をしているのでしょうか?それとも、文明化の波にのまれ、伝統的な文化が失われてしまった?
アイヌ文化発祥の地と言われる土地で、その実態を少しだけ覗いて来ました。 北海道、新千歳空港から東へ車で約1時間半、沙流郡平取町二風谷(さるぐんびらとりちょうにぶたに)にアイヌの里はあります。二風谷はアイヌ語で「木の生い茂るところ」という意味のニプタイが表すように山と森の豊かな、空気のきれいな土地。そこで、アイヌ文化が大切に守られているのです。ここでは今もアイヌの工芸品が作られています。2013年に北海道で初めて経済産業大臣の指定を受けた二風谷アットゥシと二風谷イタもアイヌの工芸品です。
アイヌ民族が元々住んでいた家はチセと呼ばれています。昔はその土地に自生する木や植物を使って作られていたそうです。結婚する人がいれば一族総出でチセを建て、家主が亡くなるとチセは燃やされ、あの世でも家主の住処としての役割を果たしたと言います。
現在は、復元されたチセの中で様々な工芸品の制作実演が行われています。そこでアイヌの工芸品についての話を聞くことができました。
二風谷イタはアイヌの伝統的な文様の入ったお盆状の板のことです。モレウノカと呼ばれる渦巻きのような曲線や、ラムラムノカと言うウロコ模様などが特徴的です。この彫刻の技法を使って様々な木工品を制作しています。祭具であるトゥキパスイ(捧酒箸)、日用品のサヨカスプ(粥杓子)にも彫刻が施されています。チセの中で実演中だった職人さんの道具、彫刻刀の持ち手にもやはりアイヌ文様が彫られていました。「クセみたいなものですよ」と仰っていましたが、アイヌ文様が身の周りにあることが当たり前なんだなあ、と感じます。わたしたち一般の日本人の持ち物、家にあるものにここまで和の文様は浸透しているでしょうか。「貴重な文化を守らなければ」という使命感もあるでしょう。しかしそれは、その文化を当たり前のものとして受け入れる気持ちがあってこそ、成り立つのかも知れません。
二風谷の豊かな森に生息する「オヒョウ」という木の内皮から作った糸を用いて織られるのが、二風谷アットゥシです。織り機を腰と柱にくくりつけ糸を張る独特のスタイルで織られます。見た目よりも手触りは柔らかく、アイヌの民族衣装の生地はもちろん、女性用の帯も制作しています。糸は手作業で紡がれます。太さのまちまちなオヒョウの皮を裂き、より合わせていくのです。こうして裂いた際に余って出た短い皮は、まとめて太い糸をよるので、材料を100%使い切ることができます。
織物は昔から女性の仕事でした。また、女性たちは刺繍も行います。この刺繍にもやはりアイヌ独特の文様が用いられます。文様の種類、面のバランスのとり方などは、彫刻にも刺繍にも通じるので、男女間の役割分担の垣根の低くなった現代では刺繍と彫刻、どちらもこなす職人さんも存在します。
アットゥシの材料であるオヒョウの皮を採りに森へ入るときは男性だけでなく女性も一緒に、家族総出で行うそうです。
二風谷を訪れるまでは、「二風谷イタ」「二風谷アットゥシ」を2つの独立した工芸品だと思っていましたが、イタやアットゥシ、そのほかの工芸や技術、行事など全てを含めて一つの伝統的な文化「アイヌ文化」なのだと強く感じました。
自然豊かな二風谷に今も息づくアイヌの文化が青山スクエアにやってくるのは9月18日(金)~9月30日(水)の特別展「日本 ここに技あり!」です!その他の参加産地情報も更新していきますので、楽しみにしていてくださいね。
二風谷アットゥシ、二風谷イタのことをもっと知りたかったら二風谷アイヌ匠の道