2015.03.03

600年分の技術は、私の中にありがたく伝わっています。

堺打刃物 : 池田美和さん

ただ、淡々と普通にモノを作る・・・

-略歴-

1967年:
鍛冶職人であった父の指導のもとで包丁作りを始める
1983年:
池田鍛錬所として独立
以来、堺打刃物の技術継承者として包丁製造に従事し、
『水本焼』や『墨流し』など、プロ用を中心に和包丁を製造。
1988年:
伝統工芸士の認定を受け、現在は堺打刃物伝統工芸士会会長として活躍されています。

(Q)池田さんは、明治時代より続く伝統ある鍛冶職人の家に生まれ、 お兄様の辰男さんも有名な堺打刃物伝統工芸士さんですが、 子どもの頃から何の疑問もなく、この道に進もうと考えていたのでしょうか?

(A)いや、意外にそうでもないんですよ。
実は工業高校を卒業してすぐ就職し、一般企業に勤めた経験があるんです(笑)2年ほど勤めた後、サラリーマンは自分には合わないなと思い、最終的に鍛冶職人を選びました。うちは男ばかりの4人兄弟だったのですが、結局みんな工業高校を卒業した後、技術職に就いています。

(Q)みなさんやはり”手に職タイプ”のご兄弟なのですね。 ところで、池田美和さんの包丁と言えば、青山スクエアでも話題の、ちょっとおちゃめな 『おさかなシリーズ』が人気ですが、このラインはどのようにして生まれたのですか? プロ御用達の『水本焼』や『墨流し』の鋭い刃物のイメージとは少し違って、 なんだかほっこりしてしまうのですが。

(A)そうですね(笑)
あのシリーズは、十数年前に包丁の制作体験を行ったことがきっかけで生まれました。
包丁の制作体験で、ベースになる大きめの素材を用意して、その素材をお客さんが好きな形に成形して包丁を作るというのをやったんです。
その時、十人十色のアイデアで、様々な形の包丁が出来上がり、おもしろいなと思ったんです。
それがきっかけで、『黒打ちマンボウ』やムツゴロウ、カワハギ、フグなどいろいろなさかなシリーズを作り始めたのです。
鋭利な包丁が怖くても、可愛くて手に取りやすいライナップがあれば、プロではない一般のユーザーの方にも、堺打刃物をより身近に感じて貰えるのではないかと思い、制作を続けています。

(Q)そうだったんですね。 いつも寡黙な池田さんからは『おさかなシリーズ』ってなんだか想像できなくて、 いつか絶対聞いてみようと思っていました。 さて、最後の質問になりますが、長年鍛冶職人を続けてこられて、 仕事に対する “ポリシー” や “心構え”などありましたら教えて下さい。

(A)私には特に立派な心構えなんてないです。
魂をこめるとか、芸術性を追求するとかそんなことではなく、
-ただ、淡々と普通にモノを作る-

これに尽きると思います。
私の顧客は、大半がプロの料理人です。
職人が職人の道具を作っているということです。
ですから切れて当たり前、使えなければその評価はとても厳しく、その後、その職人は私の道具は使わないでしょう。
芸術性より実用性を正直に評価されてしまうので、ただ淡々と作ることに専念するまで ということです。

自称 人見知りと話す池田さん。
営業上手なら職人なんてしませんよと、恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていました。

~池田鍛錬所HPより~ 
http://sakai-hokushin.jp/sakaiuchihamono.html
私が作っているのは、いわゆる“打ち物”。
一般的には堺打刃物と呼ばれています。

伝統的な火造りで、刃金と地金を鍛接し、
鎚で打ち広げて成形したものに焼き入れをして刃物にします。

板場さんが堺の包丁を使うのはその切れ味が故で、
私も切れ味とそれが長く続く長切れにこだわって包丁を作っています。

600年分の歴史について語ることは私にはできませんが、
600年分の技術は、私の中にありがたく伝わっています。

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