岡崎石工品

愛知県

始まりは室町時代後期に遡ります。その後、安土桃山時代には、現在の愛知県にあった岡崎城主が、城下町の整備のため河内、和泉の石工を招き、石垣や堀を造らせました。
この石工たちが、その技術・技法に磨きをかけ春日型灯籠、六角雪見型等岡崎石工品の原型を作りました。19世紀の初めに29軒だった石屋は、19世紀の終わりには約50軒に増え、戦前、最盛期には350軒を数えましたが、最近は減少しつつあります。

  • 告示

    技術・技法

    1 使用する石材は、「こもりきず」又は「くさり」のないものとすること。

    2 型造りには、「のみ」、「たたき」、「こやすけ」及び「びしやん」を用いること。

    3 多重塔の相輪と笠の接合は、ほぞ接ぎによること。

    4 彫りは、「のみ」、「こべら」又は「びしやん」を用いる浮き彫り、筋彫り又は透かし彫りとすること。

    5 仕上げは、「こべら仕上げ」、「つつき仕上げ」、「たたき仕上げ」、「びしやん仕上げ」又は「むしり仕上げ」によること。

     

    原材料

    原石は、岡崎花崗岩又はこれと同程度の品質の石とすること。

  • 作業風景

    石燈ろうには、さまざまな種類があり、大きくは「玉・笠・火袋・受・柱・地輪」の6つの構成部分がはっきりと識別できる「基本型」と、そうでない「変化型」に分けられます。ここでは生け込み型の織部型燈ろうの作業工程を紹介します。織部型は、上から「玉・笠・火袋・受・柱」で構成されます。

    工程1:

    「下場造り」「芯出し」「矩(かね)出し」「荒取り」「荒造り」(各工程は笠の項参照)のあと、玉の表面に「びしゃん(角錐形の突起のついた槌)」「たたき」「こべら」を用いて仕上げます。

    工程2: 笠(1)

    「天場下場造り」「芯出し(差し金、定規を用いて荒石の天場の中心を出します)」「矩出し(差し曲等を用いて切削し、下場面に四角形の寸法を墨出しします)」「荒取り(墨出しした荒石に『せっとう』と『こやすけ』の道具を用いて荒取りします)」「墨出し(荒取りした荒石に『むくり(屋根の形)』を造り出すため、墨出しします)」の各工程のあと、墨出しをした荒石に、「せっとう」と「のみ」を用いて軒を造りながらむくりを出す「荒造り」をします。

    工程3: 笠(2)

    笠の表面に「びしゃん」「たたき」を用いて仕上げます。

    工程4: 火袋(1)

    「天場下場造り」。荒石を切断機で天場面と下場面を平らに切削します。

    工程5: 火袋(2)

    「芯出し」「矩出し」「荒取り」のあと、荒造りして4面体にした後穴掘り2面、窓掘り2面を「墨出し」します。

    工程6: 火袋(3)

    火袋の表面に「びしゃん」「こべら」「たたき」を用いて仕上げをします。

    工程7:

    「天場下場造り」「芯出し」「矩出し」「荒取り」「荒造り」のあと、表面に「びしゃん」「たたき」を用いて仕上げます。

    工程8: 柱(1)

    「天場下場造り」「芯出し」「矩出し」のあと、「荒取り」した荒石に「せっとう」と「のみ」を用いて「荒造り」をします。

    工程9: 柱(2)

    彫刻
    柱の上部(ふくらみのところ)に「こべら」を用いて文字を彫ります。下部(土に活けこむ少し上)に仏像を彫る場合もあります。このあと、柱の全面に「びしゃん」を用いて仕上げをします。

    工程10: 完成

    各構成部分を組んで、完成です。

  • クローズアップ

    「石の都」に伝わる情緒あふれる造形美

    良質のみかげ石が採れる岡崎で、江戸時代に飛躍的な発展をとげた石工品。神社仏閣の燈明として生まれた石燈ろうは、やがて庭燈ろうとして庶民の暮らしの中にも取り入れられるようになった。素朴で優美な風合いが庭園装飾の世界を広げる。

     

    自分の手でものを作る喜び

    石燈ろうと一口に言っても、「立燈ろう型」「雪見型」「生け込み型」などに分れ、それがさらに細かい型に分類されている。石製品の制作・販売を手がける上野一夫さんの工場前にも、代表的な春日燈ろうを始めとするさまざまな種類の燈ろうが並んでいた。上野さんが石の彫刻の世界に入ったのは17才のとき。故郷の熊本を離れ大阪で勤めていたころ、岡崎で「石屋さん」をしていた親類のところに遊びにきて、30センチほどの大きさのカエルの置物を作ってみたのが最初だった。「3日間ぐらい時間を忘れて没頭したね」。自分の手でものを作る経験として最初に触れた石。その面白さに惹かれ、石屋の修行を始めた。

    石燈ろうは花鳥風月を愛する日本人の心に通じる

    自然のものだから引き算しかできない

    「石はもともと硬いものでしょ。硬いイメージを出すのは簡単なんですよ。それをいかに柔らかな雰囲気に仕上げるかだね。陶器のイメージを石で表現するということかな」。石だからこそ表現できることもある。「ふつう、人工的なものは物をプラスして作っていく足し算の世界ですよね。それにたいして石は削ってマイナスしていくだけ。引きの美学がある」。引いていくだけ。それは邪念を取り除くということにつながるかもしれないし、本質を見極めるということなのかもしれない。自然のものならではのわび・さびが生まれる。

    工場には加工のための大型機械も整っている

    空間をプロデュースする

    もちろん、上野さんが制作するのは燈ろうだけではない。建築様式の変化にともない、最近は「庭」ではなく「ガーデニング」を意識した和洋折衷の石工品も多くなった。狭い空間の中でいかに効果的に石を取り入れるかを考える。デザインから制作まですべて手がけるが、やはりこだわりは作ることにあるという。「デザインは頭の中での空想の世界。紙の上に描く平面的なものですよね。実際に作るのは現実の世界であり、立体的にとらえること。作ってみてはじめて、こうしてよかったとか、こんなはずじゃなかったとか、いろいろわかるわけです」

    小さな置物から、気軽に石工品を楽しんでみては?

    職人として「作ること」にこだわる

    2000年に日本最大級の石の露天風呂を作った。一個石で75トンのみかげ石は運び出しが困難だったので、すべて豊田市にある現地で加工作業を行った。数人がかりで男風呂、女風呂用の2つを半年がかりで制作した大仕事。加工後の重さは43トン。長さ6メートル、幅3.5メートル。三重県内の温泉で湯をたたえたその露天風呂は30人は入れるほどのゆったりとした広さがある。「自分が作ったものを、お客さんが納得して喜んでもらえれば」と語る上野さん。「石工品は型にはめて作るものじゃなく、すべてオリジナル。“作ること”が石屋の原点です」

    石の露天風呂。ゆったりとした気分になりそうだ

    現代人の暮らしにゆとりと明かりを

    石燈ろうは、神仏前に燈を献ずる宗教的な造り物から、真っ暗な道を照らす道しるべとしての常夜燈へ、そしてさらに庭を飾るための石工品へとその役割を変えてきたが、つねに人の心に明かりを灯す造形美であり続けた。それは燈ろうに限らず静かな意志の込められた石工品すべてに共通することだろう。住宅事情が変化し、庭をつぶして駐車場にしたり、石があると子どもが危険だからと排除したりするのは残念なことだ。「いくら時代が変わっても、年を取ればやすらぎが欲しくなるはず」と上野さんは話す。代が変わっても朽ち果てることなく永遠に親しまれていく石。ゆっくりとしたリズムを刻むその独特の風合いに触れれば、忙しく過ぎる現代社会の中で心のゆとりを取り戻す時間となるだろう。

    職人プロフィール

    上野一夫 (うえのかずお)

    1955年生まれ。
    17才で石加工の面白さに惹かれ転職。
    「見て心のやすらぐものを選んでほしい」

    こぼれ話

    暮らしの風景に石を取り入れてみる

    「庭つきの家」を持つことを夢見る人は多いですが、昨今の住宅事情では広い庭を持つことは難しくなりました。大胆に石を使った日本風の庭づくりは少なくなりましたが、狭いスペースを上手に利用してガーデニングを楽しんでいるお宅は増えているように思います。洋風の家であっても、グリーンの中に石工品をさりげなく配置して、ひと工夫してみてはいがかでしょう。新しく家を建てるのなら、門をオブジェ風にしてみたり、玄関先に石を敷いてみたり、部分的に石を使うと個性的な演出ができそうです。
    マンション住まいで庭など持てないという方でも、ベランダガーデニングに小さな石の置物を添えるなど、楽しみ方はたくさんあります。身近に置いてみると、硬いはずの石がしっとりと温もりのある、優しい表情をもつことに気づきます。

概要

工芸品名 岡崎石工品
よみがな おかざきせっこうひん
工芸品の分類 石工品
主な製品 灯籠、多重塔、鉢物
主要製造地域 岡崎市
指定年月日 昭和54年8月3日

連絡先

■産地組合

岡崎石工団地協同組合
〒444-0936
上佐々木町梅ノ木48
岡崎石工団地協同組合内
TEL:0564-31-3823
FAX:0564-31-1685

http://osd.tukai.jp/

特徴

主な製品である石灯籠は、単純な美しさを持つ直線や曲線が、交差することによってさらに色々な線と面を構成しています。高度な手法を使った飾り付けの彫刻は、石工品に繊細さと優美さを与えています。

作り方

立灯籠は、岡崎花崗岩(かこうがん)を原料とします。彫りを変化させる部分の境界線を原石に描く「墨出し」は、差曲(さしがね)を用いて行い、こやすけ、のみ、叩き、びしゃん、小べら等の道具を使って仕上げ、下から地輪、柱、受、火袋、笠、玉とのせ上げて据え付けます。

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