川辺仏壇

鹿児島県

仏教とゆかりの深い川辺地方では、鎌倉時代の初めに現在の鹿児島県の南部で力があった河辺氏と、壇ノ浦で敗れた平家の残党が、川辺町清水の渓谷を中心に、供養や仏教の伝道にいそしんでいました。
彼らによって作られたと言われる、数々の塔や墓形、梵字(ぼんじ)を刻んだものが、約500mの岸壁に残されています。1200年には河辺氏の菩堤寺が建てられ、仏教はますます盛んになりました。
このようなことから、素朴ながらも川辺仏壇の技術・技法が確立されたものと思われます。

  • 告示

    技術・技法


    「木地」の構造は、「ほぞ組み」及び「ぞうきん摺り」による組立式であること。


    宮殿造りは、「本組技法」によること。


    塗装は、精製漆を手塗りすること。


    金箔押しをすること。

    原材料


    木地は、スギ、ヒバ、ホオ若しくはマツ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。


    金具は、銅若しくは、銅合金又はこれらと同等の材質を有する金属製とすること。


    漆は、天然漆とすること。

  • 作業風景

    川辺仏壇ができるまで

    工程1: 木地(きじ)

    素材は杉・ヒバ・ホオノ木等厳選された木材を使用し、本体は分解・組立てが容易で、”欄板”から下部は”雑巾刷り板”で接合できるよう配慮されています。

    <木地作業工程>

    製材–杉などの木材の丸太を選定して購入し、厚さ、巾を指示して製材し、運搬する。丸太は2~4mの長さの材であり、ほとんど柾目挽きに製材を行います。
    天然乾燥–板材は厚さ別に選別して、天然乾燥土台の上に枕木を置き、積んで乾燥させます。この場合、日光・風を考慮して場所を選び、約6ヶ月間放置します。途中一回含水率の均一化を図るため、上下の積み替えを行います。

    荒木取り–含水率30%に低下した板材を、長さ、巾、厚さを部品の寸法を記入した尺杖に合わせて、木取りを行います。また短い部品は、切削り加工を容易にするために、2~5倍の寸法の寸法に木取りします。荒木取り後の乾燥は室内でも促進され、また狂いも少なくなります。

    乾燥–その後約2ヶ月間乾燥させます。

    切削加工–乾燥後の木材を仏壇木地や多数の部品に切削し、加工を行います。すなわち仏壇の外部分(妻壁、後板、台輪、ハチマキ、笠板、戸、障子)と中道具(猫戸、中段、中段腰、須美壇、箱差し、欄板、柱、天井、雑巾摺り、地袋、台)の部品を機械および手加工で正確に長さ、巾を切断し、留め切り・柄付け・穿孔・欠取り・面取り・溝付き・などの作業をします。

    仕上加工–切削加工後の部品を仕上削り(面・木口・木端・留)し、また、先面・穴の仕上など塗装木地として必要な部分の仕上げを行います。この作業のとき、仏壇の規格に応じた寸法で点検をして次の工程に移します。

    組立加工–小型の仏壇は、最初から外体を組み込んで堅結します。中型になると、妻壁と台輪とハチマキと塗装後に組み込めるように作ります。これは漆塗装の作業がしやすく、また品質の向上を図るためです。小型を組み立てる場合は、水平な組立台の上で錐揉みしながら、入念に釘打ちを行います。台の方は最初から組み込みし堅結します。接合部分には接着剤を用います。釘は、木厚の3倍以上の長さのものを用い、頭をつぶして打ち込みます。特に中道具(猫戸・中段・中断腰・須美壇・箱差し・欄板)を雑巾摺り(外体と中道具を支える板)に取り付け、これを外体に緊結します。雑巾摺りと外体とは一本の釘によって取り付けられていますので、この釘を抜けば、各部品が容易に分解でき、補修等が楽に行えるなどの特徴があります。

    工程2: 彫刻(ちょうこく)

    素材は松・杉・ヒノキ・ホオノ木等を使用し、図柄を選定して、ノミ、小刀などで彫刻します。また台木の取り付けには、接着剤を用い、竹串等で接合します。

    工程3: 宮殿(くうでん)

    素材は杉・ヒバ・ホオノ木等を使用し、竹串用の竹材は充分乾燥させ、防虫処理が施されます。本組構造で柱と屋根を正確に保持する方法は、川辺仏壇独特の技法です。

    工程4: 金具(かなぐ)

    素材は銅板または銅合金を使用し、図柄を丹念に鑿(のみ)をもって手加工を施します。表面加工は着色し、金具取付け用釘も同様の表面処理を施したものを使用します。

     

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    工程5: 蒔絵(まきえ)

    漆塗装(うるしとそう)した上に精製漆を使用して、下絵を描きます。その上に純金粉天然青貝を使用し、すべて手書きで仕上げます。蒔絵には平蒔絵と高蒔絵があります。
    構図描き–型置・粉蒔き–平描き(一番描き)–粉蒔き–平描き(二番描き)–粉蒔き–仕上描き–粉蒔き–黒仕上–乾燥

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    工程6: 塗装(下地)

    下地には膠(ニカワ)下地を使用し、木地のやせを防止するために胡粉を練り合わせ、ヘラ付けを重ねます。
    ・塗装は極めて、複雑な工程です。ここでは、塗装工程を順を追っていきます。
    膠(ニカワ)下地調合–刻苧掻き–地研ぎ(1回目)–布着せ–素地調整–乾燥–布目摺り–空研ぎ(1回目)–荒地付け–荒研ぎ–下地付け(1回目)–地研ぎ(2回目)–下地付け(2回目)–水研ぎ・乾燥–空研ぎ(2回目)–墨塗り–空研ぎ(3回目)

    工程7: 塗装(上塗り)

    下地が完全に乾いてから、中塗りを施し、上塗りは天然漆を手塗りで塗り上げます。
    中塗り(1回目)–空研ぎ(4回目)–中塗り(2回目)–水研ぎ–上塗り–乾燥

    工程8: 金箔押し(きんぱくおし)

    漆塗装の一定期間乾燥された部品に、箔押漆を摺り込み、純金箔を箔押しします。ツヤ出し押しとツヤ消し押しがあります。

    漆塗布–箔押しをする部分(本体の妻壁の内側、後板、扉の裏、宮殿、彫刻)には精製生漆を2、アルコール8の割合で希釈して箔押漆をつくり、刷毛または綿で軽く塗布します。また金箔を艶消しに仕上る場合は生漆を木べら、綿などで引き伸ばすように塗布します。

    箔押し–金箔を箔箸で一枚一枚入念に押さえて箔押しをします。重要な、緊張する作業です。

    乾燥–湿風呂(温度20~25度、湿度50~55%)に収納して、約24時間ほど乾燥させます。

    工程9: 組立て

    塗装、金箔押しなどが充分乾いてから、心をこめて慎重に組立て、川辺仏壇の完成です。

    工程10: 完成品

     
     

     

  • クローズアップ

    金色(こんじき)に染まるいにしえの技、川辺仏壇

    川辺地方は古くから仏教のさかんな土地で、多くの仏教にまつわる遺跡が残っている。西暦1200年頃から、川辺仏壇の技術、技法は確立されたとされている。1597年に島津藩による一向宗の禁圧などで、仏像や仏壇は焼失したが、その信仰は根強く残り、いわゆる隠れ念仏によって仏壇が小型になった。また、見かけはタンスで、扉を開けると金色燦然とした仏壇が包蔵されたものが作られた。
    明治時代の初めに、信教の自由が許され、初めて技術、技法を継承してきた池田某作が公然と仏壇製作を始め、今日の川辺仏壇の基盤を作った。

     

    熱心な仏教信仰の町、川辺町

    鹿児島市の中心部から、バスに揺られて1時間ちょっと。ここ川辺町は、約700年前に平家の落人が祖先を偲んで追善供養のために刻んだものと伝えられる『清水磨崖仏(きよみずまがいぶつ)』で有名である。源平の昔から仏教への篤い気持ちと歩んできた川辺地区。その川辺町で、伝統工芸である仏壇はどのような歴史を刻んできたのだろうか。川辺仏壇作りの伝統工芸士である、坂口正己さんにお話をうかがった。
    「仏教の盛んな土地に自然と仏壇製造が生まれるのは、市場の原理もある。それと、あらゆる法難に耐えて、その伝統技術・技法を守り抜こうとした、篤信の心が地方民に強かったということです。」と坂口さんは語り始めてくれた。
    「この地方はもともと一向宗(浄土真宗)が盛んで、仏壇も浄土真宗の“金仏壇”が中心となって発展したのです。以前は、他の宗派では唐木仏壇が一般的だったのですが、現在では宗派にこだわらず、金仏壇を使ってもらってますね。金箔貼りも優れた技能ですが、ここ川辺仏壇の特長は、その歴史に裏づけされた伝統と、妥協のない素材選定、微細な彫刻技術など。各工程で職人が分業しながら、誇りを持って、その技術を生かしているということです。」
    長い歴史の風雪に耐えた本物だけが持つ風格を川辺仏壇は感じさせてくれる。

    自作の仏壇と坂口正己さん

    「塗りは『漆との競争じゃ』」

    分業制が基本の仏壇製作の中で、坂口さんは木地から金箔押し、組立てまでこなせる仏壇作りの達人だが、本来は仕上げ部門の職人である。特に“漆塗り”にかける情熱はすごい。「漆は人間の手でコントロールできない、やっかいな代物なんですよ。おかしなものでね、漆は湿度が高くないと乾燥しないのですよ。わしの1日は天気予報から始まるんです。今日の天気はどうか、漆塗りの作業を一階の作業場でやるか、三階の作業場でやるかってね。まさに『漆と職人との競争』ですよ。」
    「手を抜いたら、すぐ漆に馬鹿にされる。漆のやつが笑って言うんですよ。『ほら、ここやり直し』ってね。」と坂口さんは笑って語る。
    「だから、50数年間漆に馬鹿にされないように、一所懸命、塗りの技術を磨いてきましたよ。」そんな坂口さんも、ある時、壁にぶつかってしまったことがあるという。どうしても従来の川辺の塗りの技法では越えられない水準があった。漆塗りの頂点を会得しなければ、自分の仏壇作りは進歩しないと思ったのだ。そこで坂口さんは、長野県の木曾漆器漆塗りの名人の所まで、教えを請いに行った。何回も何回も木曾まで足を運び、究極の漆塗りを求めたのである。その向上心や恐るべし。
    そしてその熱意に打たれた木曾漆器の職人さんも、わざわざここ川辺まで足を運び、坂口さんに自分の持つ漆塗り技術を伝授してくれた、ということである。
    そんな漆にかける坂口さん情熱の源は、厳しい宗教弾圧にあっても決して屈さず、篤い信仰心を持ち続けた川辺町の不撓不屈の精神にあると感じた。

    職人魂とは

    坂口さんは「わしがこの仕事を始めたきっかけは、信仰心からというよりも、学校を出て満州に行ったのですが、すぐ終戦を迎え、引き上げてきたのです。すぐに師匠の所へ住み込みで修行させてもらうようになりました。」「今から思うと、鍛えられましたわ。朝は6時からそうじを始め、仕事が終わるのは夜の11時。家に逃げて帰っても食えんし、がんばるしかなかったですね。まあ、もともと物作りが好きだったこともあるのでしょうが。師匠も厳しかったですよ。とにかくどれだけ仕事をしても、誉めてくれん。教えてもくれん。師匠の仕事ぶりや作った仏壇をこっそり見て、学んでいったのです。」「でもまだまだ修行中の身ですよ。職人は、一生修行でしょう。一生涯に一回だけでいいです、自分が心から満足できる、すばらしい仏壇を作ってみたいですね。」
    そして「仏壇作りは工芸技術のなかで、一番難しいと思う。」と坂口さんは胸を張る。昨年、岡山のある有名な“仁王仏像”を修復する話が、川辺町に持ってこられたのである。地元の工芸技術者、建築技術者も、尻込みしてしまうほど古く、損傷も激しかった。それが、最後に坂口さんのところに話がきたのである。仏壇作り技術の高さを知っていた人からの依頼であった。
    「仏壇が作れるモンは、なんでも作れる。わしが作れんものは子供だけじゃ」と笑って、この仕事を引き受け、そして見事にその仁王さんの修復を成功させたのである。
    このエピソードにも、川辺仏壇の技術の高さが如実に表れているのではないだろうか。

    職人プロフィール

    坂口正己 (さかぐちまさみ)

    昭和5年5月10日生まれ。
    川辺仏壇を作って54年のベテランの伝統工芸士である。口癖は「自分達の仕事には終点はなく、自分が終わるまでが勉強だ」

    こぼれ話

    仏壇作りの歴史と由来

    ここ川辺地方は古くから仏教の盛んな土地で、多くの仏教にまつわる遺跡が残っています。仏教文化を持つ川辺氏と壇ノ浦の決戦で破れた平家の残党が同町清水の渓谷を中心に伝導にいそしみ、約500メートルの岸壁に数々の塔や墓形、梵字を刻み、供養一途に生きたと伝えられています。このような仏教の隆盛や遺跡から見て、仏壇・仏具が作られたことは歴史の当然かもしれません。以上のようなことから、素朴ながらも、川辺仏壇の技術、技法はこの頃確立されたのです。しかし、これだけの遺物があるのに、仏像・仏壇が全く残っていないのはなぜなのでしょうか。それは島津藩主による、一向宗の禁制(1597年)と廃仏毀釈の布達(明治2年)により、そのほとんどが焼失したためです。ところが、一向宗の禁制や弾圧が強行されても信仰は根強く残り、いわゆる“隠れ念仏”が作られるようになりました。仏教徒の知恵とでも言うべきものです。今でも川辺仏壇に「ガマ(鹿児島では洞窟のこと)」という型のものが作られているのも、洞窟の中で布教して、一向一途に念仏を唱えた頃の名残です。

    • 丸障子付

    • 外三方開(御堂造り)

     

概要

工芸品名 川辺仏壇
よみがな かわなべぶつだん
工芸品の分類 仏壇・仏具
主な製品 金仏壇
主要製造地域 南九州市
指定年月日 昭和50年5月10日

連絡先

■産地組合

鹿児島県川辺仏壇協同組合
〒897-0215
鹿児島県南九州市川辺町平山6140-4
TEL:0993-56-0240
FAX:0993-56-5963

http://www.kawanabe-butudan.or.jp/

特徴

川辺仏壇は、7つの分業体制により製作された総合工芸品です。木地、宮殿(くうでん)、彫刻、金具、蒔絵、塗り、仕上げの各部門の職人たちの技術の粋を集め製作された仏壇は、細部まで手が入れられ堅牢で価格も手頃です。

作り方

スギ、マツ等を木地の材料とし、天然本黒塗りの後、純金箔や純金粉を使用し仕上げます。 木地作り、宮殿作り、彫刻作り、下地、漆塗、蒔絵、箔押し、飾り金具、総組立ての各製作工程を経て完成します。

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