若狭めのう細工

福井県

現在の福井県若狭の里、遠敷(おにゅう)は、若狭一の神社を頂く土地で、奈良時代に玉を信仰する鰐族(わにぞく)という海民族が、この地に来たとき、神社の前に鰐街道を作り、そこで玉を作ることを仕事としたのが、始まりと言われています。
江戸時代中期には、めのう原石を焼いて美しい色を出す技法が確立されました。19世紀になると、さらに工芸彫刻の技術が開発され、現在に至っています。

  • 告示

    技術・技法


    原石は、「なまらし」及び「あげ火」により焼入れをすること。


    欠込みは、「鉄矢」及び小槌を用いて荒欠き及び小欠きをすること。


    彫りは、次のいずれかによること。

     
    (1)
    器にあっては、「平おろし」並びに鉄ごまを用いる「えぐり彫り」及び「平面彫り」によること。

     
    (2)
    器以外のものにあっては、「平おろし」並びに鉄ごまを用いる「平面彫り」、「えぐり彫り」、「浮き彫り」、「透かし彫り」及び「筋彫り」のうち少なくとも二つの組み合わせによること。


    みがきは、桐ごま、桐棒等を用いて砂目跡を残さずみがき上げること。

    原材料

    原石は、めのうとすること。

  • 作業風景

    めのうという石は非常に硬く(硬度7)、そのため加工がとても難しく、手間と時間がかかります。また、
    若狭めのう細工は世界でも珍しい“焼入れ”という工程によって、鉄分を酸化させて美しい赤色を出しています。全体の工程は、大きく分けて、原石を選ぶところから始まり、焼入れ、削り、磨きと進み、細工を完成させていきます。宝石工芸の最高峰ともいえる貴重な技をごらんください。

    工程1: 原石

    明治の中頃から北海道で良質の原石が得られましたが徐々に枯渇し始め、現在はブラジル産の良質の石を使用しています。

    工程2: 検石

    原石を調べ、どのような細工に適しているかを色・模様から判別します。中まできれいな石だと彫刻用の大物に、中が空洞だと良質の部分をイヤリングやブローチなどの装身具に使います。

    工程3: 大切り(おおぎり)

    細工に適した大きさにするための工程で「弓式切断機」で原石を切断します。鋼鉄製の板には刃が付いておらず、すり砂と水を混合させて泥状にしたものを絶えずかけながらの作業。

    工程4: 野晒し

    「焼入れ」後の色彩を鮮やかにするため、原石の内部まで自然酸化が進むまで置いておきます。

    工程5: 焼入れ

    焼入れとは原石が含有している鉄やクロームなどを加熱することで酸化させ、石の色彩をより鮮やかに発色させる方法です。その方法は、原石を灰の中に入れ、その上から炭を起こして焼入れします。これを何度も繰り返して赤みが出るまで行ないます。熱しすぎると石が割れ、逆に温度が低すぎると色が不透明なままという職人の腕と感が必要な作業です。現在は電気窯を使って約300度の温度で数日かけて焼入れを行うことが多くなりました。

    工程6: 小切り(こぎり)

    焼き入れした原石の色・模様・キズを見ながらどのように加工するかを決めて、石墨でおおまかな形を描き、ダイヤモンドカッターなどで余分なところを切断します。

    工程7: 欠込み(かきこみ)

    石を膝や足で支えてから五寸釘のような鉄矢(てつや)をあてがって、小槌で叩いて石を削る作業。形を整えていきます。

    工程8: 削り

    ろくろと呼ぶ細工機に鉄ゴマをつけ、水を含ませた金剛砂(こんごうしゃ)を石に絶えずかけながら削ります。荒削り・中砂・仕上げ削りの順に砂を細かくして形を仕上げていきます。

    工程9: 磨き

    形ができあがれば表面をなめらかにする泥磨きを行います。ろくろに木ゴマをつけ、細かいすり砂を使って磨き上げてゆきます。最後に木ゴマと酸化クロームという磨き粉を使って仕上げ磨きを行い、めのうが内包している深い透明感を表面に引き出してゆきます。
    比較的簡単な形のもので、大切り後の生地取り・小切り・欠込みで約12時間、荒削り・中砂・仕上げ削りで約16時間、泥磨き・仕上げ磨きで約8時間かかって、めのう細工が完成します。複雑で細かな細工のものは1カ月半かかることもあります。

     

  • クローズアップ

    焼入れが生む炎の彫刻 若狭めのう細工

    あざやかに赤く発色するめのう細工。世界的にもきわめて珍しい焼入れと根気のいる削り・磨きが宝石工芸の最高峰を演出する 。

     

    焼入れが引き出すみごとな赤のグラデーション

    若狭めのう細工では雄鶏と雌鶏や鯉などの動物がよく題材にされる。その赤く燃え上がる炎のような色は“焼入れ”という工程で生まれる。灰色をした原石に文字通り熱を加えることで、鉄分が酸化して赤く発色するのだ。世界的にも珍しいこの工程が、若狭めのう細工の大きな特徴でもある。どのようにして“焼入れ”技法が発見されたのかは定かではないが、焚き火などで赤く変色する石があることを誰かが見つけ出したのだろうと言われている。

    美しい半透明のめのう細工。雄鶏雌鶏は伝統的な題材

    硬い素材を丹念に磨く

    めのうは硬い鉱石である。硬度は7。原石を切って板状にするだけでも切断機を使って約70時間かかる。曲玉などの小さくて比較的単純な形を仕上げるにも3日がかりの仕事。精密な細工を施し、みごとな艶を出すとなるとひとつの作品に30日から45日間、職人がつきっきりになるという。
    完成品だけを見ていては知ることができない多くの苦労が、美しい細工に刻み込まれている。硬い石を彫り込み、艶やかに磨くためには、どうしても作業に時間がかかってしまい価格も高くなってしまうが、その工程の困難さを知ればその価値がわかってもらえるだろう。

    原石を鉄の板で切断する。約70時間もかかる

    由来にまつわる二人の歴史的な職人

    約270~280年前の享保年間。「高山喜兵衛(たかやまきへえ)なる人」が若狭めのうの由来として登場する。浪速に出て眼鏡屋に奉公中、玉造の技を習得し、帰郷後若狭でめのうの玉造りをはじめたと言い伝えられている。その後、明治初年に中川清助(なかがわせいすけ)という人が玉造に飽きたらず、さまざまな工芸彫刻法を編み出し、現在の彫りの技術が伝えられるようになった。

    細工技術を今に伝える職人

    今回お話をうかがった高鳥純一さんも、中川清助氏の細工技術を今に伝える職人の一人。「めのう職人には玉屋と細工屋がいます。私は細工屋、形を作っていくのが好きでこの仕事をしています。」
    「めのうはとても硬く、彫刻の素材としてはきわめて特殊。彫りや削りで形を作っていくのは(たいへんだけど)楽しいし、細かい作業も気にならない。でもその後の磨きが本当にたいへんなんです。」ろくろに取り付けた鉄ゴマに研磨剤の金剛砂(こんごうしゃ)をかけてめのうを磨く作業。砂を少しずつ細かくしながら何度も何度も磨く。こうして長い時間をかけて、ようやく美しい艶が出てくるのだ。この磨きの困難さが、他の素材での細工と大きく異なる。とくに細かな細工を施した部分には研磨剤が入りにくく、彫り跡もなかなか消えない。

    金剛砂でひたすら削り磨く(若狭めのうセンターにて)

    完成間近に訪れる一瞬のできごと

    この仕事の難しさを伺ってみると、「良くあるのは、細工が終わって、後は磨きだけという段階の時に、摩擦熱で(めのうを)割ってしまうこと。摩擦熱というのは一瞬のうちに温度が上がります。まさに、アッという間。」しかも完成が近づくほど、その危険性は増すという。
    「また、ある程度彫り進んでから、原石がもともと持っていたキズや穴にぶつかってしまうこともあります。お客さんにもよりますが、穴が出た時点でもうだめという場合も多いです。その他にも、焼入れで思った通りの色がでなかったり、適当な原石そのものを探すのに1年かかったり。失敗や苦労はきりがありません。ようやく完成したと思っても見ているうちに欠点がどんどん見えてきて・・・。」厳しい職人の目には、自分自身の技への妥協はない。

    焼入れ前の原石は灰色をしている

    めのうらしさが出たときのよろこび

    「それでも、半透明で向こう側が透けて見えるようなめのうらしさが出たときはとてもうれしいです。ガラスとも違うめのうという素材が持つ独特の美しさですね。」と言って、高鳥さんはめのう細工のカップに水を入れて、水面の揺らめく様子を光にかざして見せてくれた。微妙な色合いや透明感はこれまで経験したことのない不思議な質感を帯びている。また、そのひんやりとした石肌のなめらかな手触りも大きな魅力だ。本物の職人がひたすら石と向き合った結果生まれる芸術を、その目とその手でじっくり味わってもらいたい。

    「めのうらしさが出た時が嬉しい」という高鳥さん

    職人プロフィール

    高鳥純一

    25歳の頃から始め、すでに25年以上の職人歴。ざっくばらんな語り口でめのうの歴史はもちろん、地元の文化や社寺についても詳しく話し、やさしい笑顔が印象的。

    こぼれ話

    めのうの根付けと携帯電話

    滑らかな感触が嬉しくて、つい取り出してしまう小さな曲玉の根付け(ねつけ)を携帯電話のストラップ代わりにつけて、光にかざしてみるとみごとなグラデーションが鮮やかに浮かび上がります。濡れたような艶、ひんやりとした滑らかな肌触り。電話をかけるつもりがなくても、つい鞄から取り出してその存在感を確かめてしまいます。
    「根付け」とは、印籠などにつけたいわば江戸時代のアクセサリー。動物などのユーモラスなものが多く、人とは違うオリジナリティあふれる面白いものが求められました。まさに今で言う携帯電話ストラップ。同じような形の電話で持ち主の個性をアピールするアクセント。もちろん、江戸時代に携帯電話などありませんでしたが、自分だけの愛着のある小さな宝物をもっていたいと思う心は、今も昔も変わらない粋な楽しみといえそうです。

     

概要

工芸品名若狭めのう細工
よみがなわかさめのうざいく
工芸品の分類 貴石細工
主な製品装身具、置物、茶碗、風鎮(ふうちん)
主要製造地域小浜市
指定年月日昭和51年6月2日

連絡先

■産地組合

(若狭めのう細工)小浜市 商工観光課
〒917-8585
福井県小浜市大手町6-3
TEL:0770-53-9705
FAX:0770-52-1401

http://wakasa-koubou.com/

特徴

めのうは、年輪状の模様を持った半透明で味わいのある石英という石です。この原石を200~300度で焼くと、美しく発色することに気づいた人達が、若狭独特の焼き入れの技法を作り上げました。非常に硬い原石に、時間をかけて彫刻・研磨を施し、愛らしい動物や仏像、香炉、杯、様々な装身具等に仕上げます。

作り方

めのう細工の工程は、大きく分けて石地取り、焼き入れ、彫刻・成形、磨きの4工程があります。模様等、それぞれの持ち味を生かして切断された原石は、焼き入れによって美しく発色し、貴石細工独特の技法で丹念に彫刻、研磨されて、繊細で味わい深い工芸品に生まれ変わります。

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