駿河雛具

静岡県

駿河雛具は、16世紀、今川氏が現在の静岡県の駿河の大名であった時代にすでに生産されていました。温暖多湿な気候と、久能山東照宮や浅間神社の造営等をきっかけに全国から導入された高度な技術を応用して、江戸時代に定着した漆器作りの一分野として雛具作りが発達しました。
木地、漆、蒔絵、金具等の工程を分業化することで、手工芸でありながら、大量の製品を作ることができました。さらに、江戸や京都等の大消費地の中間にあるという有利な立地条件を活かして発展してきました。

  • 告示

    技術・技法


    木地は、「指物木地」又は「くりもの木地」を用いて成形加工すること。


    金具は、「彫り込み」されていること。


    仕上げは、次によること。

     
    (1)
    加飾をする場合には、「蒔絵」又は「金箔押し」によること。

     
    (2)
    取付金具を使用する場合には、「彫り込み」又はこれに準ずる加工による金具を用いること。

    原材料


    指物木地に使用する木材は、ヒノキ、ホオ、ハン、カツラ又はこれらと同等の材質を有するものとすること。


    くりもの木地に使用する木材は、ミズメ又はこれらと同等の材質を有するものとすること。


    金具は、銅、銅合金又はこれらと同等の材質を有する金属製のものとすること。


    箔押しには、金箔又はこれと同等の材質を有するものを使用すること。

  • 作業風景

    御所車、たんす、長持、鏡台など、雛道具には主だった小物だけでも数十種があり、ひとつひとつが本物と同じ工程で作られています。それぞれの作業は専門的技術を持つ職人の分業制で行われ、高度な職人技が総合的に注ぎ込まれて完成にいたります。

    工程1: 木地作り

    板を切ったり削ったりして、箱型の木地を作ります。のこぎり、かんななどが道具となります(指物師)。

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    工程2: 木地作り

    丸型の木地を作ります。荒く形をつくった木地を横軸のろくろにかけ、刃物をあてて削ります。小さなものになればなるほど、高度な技術が要求されます(挽物師)。

    工程3: 塗装

    紙ヤスリで表面を整えたあと、下塗、中塗、上塗と、乾燥や研磨を繰り返しながら、漆やカシュ―漆などの塗料を何回も塗ります(塗師)。

    工程4: 蒔絵

    漆で下絵を描いた上に金粉や銀粉などを蒔いて絵をつけます。乾燥させたのち、羊皮で表面を磨きつやを出します。唐草や花鳥風月などが一般的で、いくつかの色を用いて変化をもたせることもできます(蒔絵師)。

    工程5: 金具作り

    作業しやすい寸法に切ったあと、炭火で加熱してから徐々に冷まします。表面をきれいに磨いてから、金具の模様を和紙に書き込み、切り抜きます。「たがね」を使い、模様や形を彫り込んでいきます(金具師)。

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    工程6: 仕上げ

    雛具に金具を鋲打ちし、接着剤で固定化します。伝統的な技術を生かして、たくさんの部品をまとめて組み立てます(仕上師)。

     

  • クローズアップ

    ミニチュア世界の華麗な装飾品

    戦国時代から、静岡には浅間神社で使う塗物を作る職人集団・御器屋衆(おきやしゅう)が集まり、漆塗りに適した温暖多湿の気候も手伝って、漆器制作の高度な技術が発達した。その伝統の技術を活かした静岡の雛具は、現在全国生産の約90パーセントを占める。

     

    熟練の技と美的感覚が生み出す華麗な道具たち

    箪笥、長持、鏡台、御所車、高杯や椀など、小さいながらも本物に近い製法で作られる雛具は、装飾美術品としての輝きを放ち、雛壇飾りをより華やかに見せる。この引出しをあけたら中に何が入っているのだろう。そんな想像力をかきたてられる独自のミニチュア世界は夢をもたせてくれる。雛具制作は五職と呼ばれる木地職、挽物職、塗職、蒔絵職、飾金具職を中心とした分業体制で行われ、いわば職人技の集大成。古くから木漆工芸の盛んだった静岡ならではの高度な技術が駆使されている。

    完成度の高い雛道具は、熟練の技から生まれる

    正確な手作業が仕上がりの完成度を高める

    市の北西部にある雛具団地へ向かう道筋には茶畑が点在し、川と緑の豊かな風景が広がっている。挽物師である神保紀久雄さんの作業場に足を踏み入れると、まずは木の匂いで迎えられる。雛具の木地は箱型のものは指物師、丸みを帯びたものは挽物師の手によって作られる。寸法に合わせて切った木材を横軸のろくろにセットし、刃物をあてがうと、測ったように正確な丸い形に削られていく。「型があるわけではないから、自分の手の加減で決めていくわけだよね」。小さなものも当然難しいが、太鼓のような大型のものでも、乾燥したときに割れ目が入ってしまうなど、扱いには細心の注意が必要だ。仕上げた木地は神保さんの手を離れて塗りや蒔絵の工程へと進むわけだが、完成して飾られている雛具を見ると、自分の作ったものがわかるという。「手がけたものが、きれいな商品となっているのを見ると、うれしいね」

    高杯や椀などの丸型の木地は、ろくろを使って作る

    蒔絵の技術が雛具制作を支える

    雛具の装飾性を高めているのは、やはり華麗な蒔絵が施されていることだろう。漆で下絵の模様を描いた上に金粉を蒔く。ミニチュアとはいえ気品あふれる絢爛さは目をみはるばかりだ。模様は唐草や花鳥風月が多い。だが、蒔絵師の見城福二さんが描く唐草模様はひと味違う。定番の模様でありながら、その枠の中で自由な創作性を発揮し、新しい感覚を取り入れた作風が人気を呼んでいる。「はまったものばかりじゃ面白くないから」と話す見城さんは、それでもやはり「唐草が一番落ち着きがあっていいね」とこだわりを見せる。創作意欲を刺激するために、デッサン旅行に出かけることも多いらしい。この道に入って50年を超えるが、「一年中、何かに興味を持っています」と、常に新しい試みに挑戦している。

    様々な模様の加え、金以外の色を使って変化をもたせることもある

    需要の低下にたいする課題

    全国生産の約90パーセントを占めるとはいえ、出生率の低下と住宅事情の変化で雛具の生産量は第2次ベビーブームのピークだった昭和48年から減少し続けている。この年209万人だった出生数は平成11年には118万人。需要が半分近くに減った上に、都会のマンションでは雛飾りを置く場所もなく、小型化、簡易化が進む。7段飾りが3段、1段と小さくなれば、それだけ必要とする雛具も少なくなる。地元では雛具や漆工芸の職人技を存続させるための自助努力として、まずは小学校の給食の器に漆器を取り入れることを検討している。卒業してからは自分の家で使うようにして、家庭生活の中から需要を広げようという考えだ。関心が薄れている節句行事の伝統に目を向けてもらうことも今後の課題。それが雛具という一つの日本の美の継承につながっていく。

    職人プロフィール

    神保紀久雄 (じんぼうきくお)

    1933年生まれ。
    木地を削る刃物はすべて手作り。
    少しでも切れ味が落ちると、一日に何百回も研ぎなおす。

    1933年生まれ。
    中学卒業後、工芸の訓練校で蒔絵を学ぶ。
    現代感覚を取り入れた作風が独創的。

    こぼれ話

    漆器をjapanと呼ばせた蒔絵の技術

    英語で陶器はchinaといいますが、漆器はjapanといいます。中国や東南アジアでも生産されていた漆器がjapanと呼ばれたのは、日本独特の蒔絵の技術がひじょうに優れたものとして評価されたからでした。
    かつて、静岡の漆器は量産化をはかるために下地塗りの材料として安価なものを使い、安物のイメージをもたれたこともありますが、雛具の場合は高価な漆を使わなくても豪華絢爛な蒔絵の加飾を施すことで、装飾品としての価値を高めることができました。体質が雛具生産に適していたということでしょうか。静岡を中心に発達した蒔絵の技術は、「塗りは京都でも、蒔絵は静岡で」というぐらい信頼を置かれてきたものなのです。

    • 上品で繊細な美しさは、インテリア雑貨として使いたくなるほど

     

概要

工芸品名 駿河雛具
よみがな するがひなぐ
工芸品の分類 人形・こけし
主な製品 ひなまつり・端午の節句飾り、ミニュチュア製品
主要製造地域 静岡市、焼津市、掛川市
指定年月日 平成6年4月4日

連絡先

■産地組合

静岡雛具人形協同組合
〒422-8051
静岡県静岡市駿河区中野新田723
TEL:054-281-8432
FAX:054-284-5806

特徴

唐草・花鳥山水等華麗な蒔絵が、ひなまつりの飾り物としての駿河雛具を際立たせています。指物、挽物等の木地も細部にわたって緻密に作られています。例えば掌に乗る針箱一つをとっても、引き出しまできっちり箱状に作られているのが特徴です。

作り方

各工程ごとに分業化された熟練した職人の手で作られ、メーカーがそれら工程をまとめ仕上げをして製品化されます。作業の流れは指物・刳物(くりもの)等の木地作り、塗り、蒔絵、金具付け、仕上げになります。

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